エピソード103
水やりに出た女性がれいを見つける。
女「あら旅人さん?何か月ぶりかしらね。うふふ」
とてもにこやかで愛想が良い。関所の兵士の怖い顔とのギャップがすごい。れいは一気に安堵するのだった。もし街の中もあんな怖い人ばかりだったらどうしようと、少し不安だった。
そして素朴ながらも美しいワンピースを着ていた。美しい庭によく映えている。
ガーデンブルグ。庭の城。なるほど。
れ「あのう。宿屋はどこにありますか?」この街はぱっと見、店の看板らしきものが見当たらないのだ。
女「宿屋?そんなものないわ」
れ「えぇ!」
女「うふふ。どこの家の人でも泊めてくれるわよ。お友達になった人のところに泊まればいいんじゃない?」
れ「そうなのですか・・・」まぁホームステイという文化には免疫がある。
寝る場所を不安に思う必要性はないようだった。もう少し散策してから決めればよいだろう。
れいは静かに町を歩いた。向こうには大きな城が見えているが、城に入る前に町を歩きたい。
およそ同じような家が続いている。どれもハチミツ色で、どれも緑の葉に守られている。そして住人たちは皆、パステル調のまぶしい、カラフルな服を着ていた。緑の葉の前に立つ彼女たちは、まるでお花のようだ。
城壁街の中には幾つか小川が流れている。人工の川であるように見える。生活やガーデニングのための水源なのかもしれないが、同時に、これは造園的な美意識によってしつらえられているような気がした。町を横切る川は風情があるし、そのせせらぎの音は心地よい。ずっと春が続くかのような幸福感を演出している。
小川を渡る小さな橋も美しく、可愛らしい。
区画整理はされていないのか、または敢えてランダムに家を並べたのか。いずれにせよここも、フズのように迷路なのだが、永遠にゴールに辿り着きたくない迷路など、地球上ここ以外に存在するのだろうか?れいは微笑まずにいられないのだった。
よくよく見れば、店らしきものがある。
長細いパンを台に並べた家を見つけ、れいは近寄ってみた。お腹が減っている。
台の奥では若い女性が機織りをしていた。
れ「あのう、パンをいただけますか?」
女「あら、初めて見るお客さんだわ」
れ「お客さん。やっぱりお店なのですね?」
女「えぇ。私一人では食べきれないの。うふふ」ここの人々はなぜこんなに気さくで平和なのだろうか。
近寄って見ると、バゲット以外にも様々なパンがある。惣菜を載せたようなパンもあり、れいはそれを3つ選んで指さした。
女「はい、1ゴールドよ」
れ「じゃぁ3ゴールドですね?」
女「ううん。3つで1ゴールドでいいのよ」
れ「えぇ!」これまで見てきた世界の物価と比べて、あまりにも安すぎる!
女「うふふ別に4つでも5つでも1ゴールドでいいのよ?とりあえずお金貰っておけばいいの。
お金が幾らかなんて大した問題じゃないのよ」
なんだか価値観が突き抜けている・・・!
れ「ありがとうございます」
女「ごきげんよう」