昼近くまで、
クサカベさん家の庭で、のんびり涼んでいた。
お喋りをしながら。
クサカベさんは、
「ツアーの内容」にはこだわりを見せたが、
「金儲け」には、こだわっていなかった。
商売っ気が無いのだ。
自分でホームページを作り、
ツアーの内容を丁寧に紹介するだけで、
他にはこれと言って、戦略めいたことをしていなかった。
「価格競争なんぞやって、無理やり客を呼んでも、
意地汚い客が増えて、ストレスになるだけだよ」
と、涼しい顔で笑っていた。
…そう。
彼が、ツアーの集客にこだわらない理由は、
その、ホームページ作成のスキルにも、あった。
彼は、プロのウェブ・デザイナーとして、
現地の中小企業を対象に、
ホームページの作成を、請け負っているのだ。
それも、すこぶるマイペースなものらしい。
何しろ、作成スタッフは彼しか居ないのだから、
無闇に仕事を受注しても、追い付かなくなってしまう(笑)
また、現地の中小企業が対象だから、
大した報酬も、求めていないのだ。
彼は、夫婦2人が暮らせていければ、それで満足なのだ。
あとはもう、
自分の持っているスキルや環境を、奉仕同然で、差し出すのだ!
たとえば、
仕事用のパソコンを使って、CD-Rのデータ焼き業務なんかも、行っていた。
04年当時、デジカメの爆発的な普及とは対照的に、
タイでCD-Rを焼ける環境は、かなり少なかった。あっても、高い。
クサカベさんは、必要としている人たちに対して、
僅かな料金だけを請求して、データ焼きの作業を、請け負っていた。
また、
広い庭は、美しく手入れされており、
陽射しを防げる東屋とあいまって、憩いの場となっていた。
客であろうと無かろうと、日本人であろうと無かろうと、
誰にでも憩いを開放し、好きにくつろがせていた。
彼が旅人たちに優しいのは(旅人以外にも優しいが)、
彼自身もまた、旅人だったからだ。
若い頃に、世界のあちこちを放浪してきたらしい。
「オススメの場所はどこですか?」と尋ねたら、
「中国の奥地の、名前も無いような村が面白かった」
と言っていたから、相当ディープな旅人だ(笑)
スピリチュアルな用語を使うなら、
彼は、「オールドソウル」である。
「オールドソウル」たちは、
世界の各地で、似たような奉仕的な生活を、ひっそりと送っている。
そして、自分らしい生き方をしようとする冒険者たちを、支援し続けている。
『首長の村の掟 -真実の物語-』