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エピソード14 『ミシェル2 -世界の果て-』

エピソード14

早朝の6時頃に、私は誰かに起こされたわ。

リトアニアのヴィリニュスに到着したのよ。

みんな眠そうな顔しながら、でもそそくさとバスを降りていっちゃった。

私はのんびり一番最後に降りた。

ふと横を見やると、バスの座席下の荷物入れから大きなリュックを下ろしてる運転手。

そしてそれを眺める青年。彼のリュックね。

他の乗客とは違うわ。カバンも服装も。旅人ね。

青年は、リュックを受け取ると運転手に感謝を告げ、

そして振り返って私の存在に気づいた。

「やぁ。若い女の子が一人旅?珍しいね。」

旅慣れていそうよ。色々と情報がもらえるかもしれないわ。

「そうなの。あなたヴィリニュスに詳しい?」

「詳しいってことはないよ。俺だって旅人さ。

 ま、キミよりは詳しいと思うよ。旅についてはね。」

「そうね。私、ミシェルよ。」

「やぁミシェル。俺はマリウシュ。ポーランド人だよ。

 とりあえず、何から聞きたい?」彼は歩き出した。私はついていく。

「そうね。まずはホテルを確保したいわ。

 それが一番安心するの。まだ初心者だから。」

「誰でもそうだよ。気にしなさんな。

 ホテルなんかいっぱいいあるよ。大きな街ならね。」

「それはそうなんでしょうけど…その、安いホテルがいいの。お金ないから。」

「お金ないのキミ?金持ちそうな服着てるけど。」

「これはママが買ってくれたのよ。今は自分のお小遣いで旅してるの。」

「そうか、そうだね。わかるよ。俺はキミより貧乏だ。」

「300マルッカくらいでどうにか見つからないかしら?

 無理かな?やっぱり。タバコ臭い部屋でも我慢するんだけど。」

「300マルッカ!?」

「ご、ごめんなさい。400マルッカでいいです。」

「いやいや、上げる必要はないよ。」彼は笑ってる。

「え?」

「ソビエト側なら100マルッカもあれば充分さ。10ドルね。」

「100マルッカ!?嘘でしょ!?」

「嘘じゃないよ。100マルッカもありゃ充分さ。

 ただし、個室じゃないぜ?」

「は?あなたと相部屋ってこと!?」私は身構え後ずさりした。

「違うよ違うよ!

 相部屋は正解だけど、俺と同室になる必要はないさ。

 ユースホステルって聞いたことない?若者向けの安宿だよ。

 ドミトリーなら安いんだ。」

「ドミトリー?学生寮のこと?」

「学生寮じゃなけど、学生寮みたいなもんだ。

 1つの部屋に4つか6つはベッドがある。他の客と相部屋するんだよ。」

「あなたとだけじゃなく、他の旅人とも相部屋するわけ?」

「女は女の部屋があるんだよ。

 女だとしても、他のヤツらと相部屋するのイヤか?

 とにかく俺と相部屋する必要はない。」

「なぁーんだ女の子か!それならいいわ。

 イビきうるさい人いないわよね?」

「それはわからんよ。居るかもしれん。

 まぁ男よりは女のほうが、イビキかくヤツは少ないだろうよ。」

「そうね、行ってみないとわかんないことよね。

 いいわ。そのユースホステルっていうやつで。」

私はただただマリウシュについていく。

でもマリウシュは、旧市街の城門を見ても中には入っていかないの。

何か手書きの地図を見ながら歩いてるわ。

「あれ?旧市街、通り過ぎちゃったわよ?」

「そうだよ。旧市街は風情はあるけど、宿が高いんだ。

 安い宿探すなら、旧市街の外に出たほうがいいよ。覚えておくんだな。」

「そうなの?色々あるのね。法則が。

 マリウシュは、この町のユースホステルの情報はどこで手に入れたの?」

「この地図のことか?

 これはタリンのユースホステルで、情報ノートを見たのさ。」

「情報ノート?」

「そうだよ。情報ノート。

 旅人たちが情報交換のために書き込んでるノートでさ、

 大抵どこの安宿にも置いてあるよ。

 ガイドブックはまだ、アメリカやイギリスのしか出てないから、

 こういうマイナーな国をさすらうには、旅人たちの情報ノートが命綱になる。

 旅人って、みんなで助け合ってんのさ。顔を合わせてなくてもね。」

「ステキ!みんな秘密基地の出身なんじゃない!?」

「え?何?」

「ううん。なんでもないわ。」


『ミシェル2 -世界の果て-』

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