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エピソード149 『天空の城』

エピソード149


れいは町長の家から離れ、町中に戻る。他の人の意見を聞いたほうが良さそうだ。戦闘も何も起きていないが、町の主産業が停止するというのは町全体の危機ではないだろうか。大きな問題ではないだろうか。

炭坑組合に行ってみた。


丁度、役員らしい偉そうな歩き方の男が、つまようじを咥えながら役場に入ろうとしていた。

れいは声を掛けながら一緒に建物に入る。

役「ああ?」

れ「私冒険者なのですが、町長さんに鉄鉱石を採ってくるよう頼まれてこなしました。

 炭坑には誰もいませんでしたが・・・この町の炭鉱夫たちは、働くことが嫌いなのですか?」

役「ああ?ストライキのことか?」

れ「はい。それです」

役「そうなんだよ!たまったもんじゃねぇ。鉄鉱石の仕入れが滞っちまってどうしてくれるっていうんだよなぁ。ラダトームからまだまだたくさん依頼が残ってんだよ」

れ「どうして働かないのでしょう?」

役「怠けものなんだよ奴らは。報酬を上げなきゃ働かねえぞってな。欲の塊だ!

 お嬢ちゃんからも叱っといてくれ。可愛い女が言うとゆうこと聞くんだ。男たちってのは」

ふうむ。やっぱり炭鉱夫たちは欲深い怠けものなのか。

・・・うん?でも町長は、「何とも言えない」と言っていた。事情が複雑であることを示唆していた。「組合のせいとも言えないこともない」とかなんとか・・・。

事情聴取をここで止めては駄目だ!とれいは思った。善悪の問題は特に、早とちりしてはいけない。



れいは宿に戻って、宿主に尋ねてみることにした。

宿「ストライキってのは労働者の問題じゃないよ!雇用者が悪者だから起こる事件さ!」

れ「えぇ!?雇用者というのは?」

宿「組合さ。エンゴウの炭坑組合だよ。組合の幹部たち、だな。

 やたらめったら働かせて、それなのに給料が上がらない。働く量は昔の2倍に増えたのに、給料は1割しか増えてないんだぜ?そりゃやる気もなくなるさ」

れ「2倍に増えたってことは、昔はろくに働いてなかったってことではないですか?」

宿「まぁのんびり働いてたってのは間違いでもないだろうけどよ。それにしたって2倍に労働量が増えて、賃金は1割しか上がらないってのは横暴だろうよ」

そのとおりだ。

れ「どうしてそんなに働く量が増えたのですか?」

宿「ラダトームと取引するようになったからだよ。

 隣にラダトームって城下町があるんだがな、あそこは軍事国家で、武器や防具を作るのに鉄がたくさん要るんだ。

 そんなとこと取引するから、エンゴウの炭鉱夫が掘らなきゃならない量も莫大に増えちまった」

れ「それなら、輸出したぶんの報酬も増えたはずです」

宿「組合としては、な。

 交渉だの給与支払いだのって事務的なことは、もっぱら組合が仕切ってる。

 ラダトームから莫大なカネが流れてきても、それは炭鉱夫たちにほとんど回らず、組合の幹部たちがぱふぱふ屋通いに使ってんのさ。

 オレはストライキする炭鉱夫たちに同情するぜ」

なるほど。


れ「町長さんは、組合を制裁するつもりがないようでした。町の危機だというのに・・・?」

宿「町長にもワイロが流れてんだろうよ。立派な馬車に乗って一緒にぱふぱふ屋に行くんだよ」

癒着、というやつだ。

れ「権力者が悪なら、制裁をしなければなりません。町の平和のために。

 私、少しなら戦えます」

宿「偉いなぁ姉ちゃん。ありがとうよ!

 でもな、いいんだ。

 これは俺らの町の問題でさ」

れ「えぇ?炭鉱夫たちで、襲撃の計画などあるのですか?」

宿「いいや、ストライキってのが一つの抵抗の形なんだよ。

 別に力づくで組合や町長を懲らしめたっていいのかもしれない。炭鉱夫たちは強いよ。

 フランって国は昔、そういう革命を起こして平等を勝ち取ったらしい。それは正しかったような気もするよ。

 でもな、エンゴウの民は戦うことを望んじゃいねぇ。ガラは良くねぇぜ?酒ばっか飲んでるし足は臭い。でも誰のことも殴りたくねぇんだよ。だからストライキを起こすのさ。無言の抵抗だ。

 ストライキってアクションを起こしてるだけ、まともだと思うよ。悪いやつらに服従してないってことだからな!」

そういうことなのか。


れ「でも、ストライキが長引いたら、町が困ってしまいませんか?やはり複雑な問題に見えます」

宿「そうでもないんだよ。民はそんなに困っちゃいねぇ」

れ「どうして?」

宿「家を作るぶんの鉄鉱石は別に不足しちゃいないからなぁ。

 それに、もし炭鉱夫の誰かが結婚でもして家を建てたいなら、別に炭鉱夫仲間でソイツの家の建材分だけは堀りに行くだろうよ。組合を無視して家を作ったり町を直したりすることは、出来るのさ。はっはっは」

なるほど。色々わかった。

れ「ありがとうございます。ストライキって、悪いことなのかと思っていました」

宿「いや、悪いストライキもあると思うぞ。

 民衆がダダこねてるだけのケースもある。

 状況をよく見ないと、正義のストライキかはわからんね。

 今回のケースで言えばさ?

 組合の幹部たちがカネをせしめてるから、ストライキが正義になる。

 でも権力者たちも貧しいまま頑張ってるなら、ストライキはしないほうが良いんだろうなぁ。まぁ簡単な問題じゃないけどよ」


ガラは良くないし、大酒呑みだし、足は臭い。けれども平和に懸命に生きている民、か。

手を出してはいけない戦いも、あるらしい。

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