エピソード162
れいは大きなボロボロの世界地図を抱え、わなわなと震えた。
れ「ね、ねぇ?この地図、持っていってもいい?」
子「ダメ!」
まぁそうだろう。
どのみち、詳細な場所を知るには縮尺が曖昧すぎる。
質問を変えてみた。
れ「ねぇ、このあたりに大きな洞窟ってある?」
子「どうくつ?」
れ「えっと、鍾乳洞のこと。自然が作った大きな穴のことよ」
子「ほら穴のこと?」
れ「えぇ、同じ意味だわ」
子「あぁ。あるよ」
れ「本当?どこ?」
子「どこって言ってもわからないけど、村の反対側だと思うけど。
危ないから連れてってはもらえないんだ。魔物が出るよ」
れ「村の大人に聞けば知っているかしら?」
子「知ってると思うよ」
この子たちはおそらく、近くに海賊の財宝があることをわかっていない。憧れに満ちた子供たちに教えてあげたい気もするが、申し訳ないが様々な事情により、それは無理だ。せめて、私が《はやぶさの剣》を見つけた後でないと。
この子たちは、海賊船の舳先(へさき)と同じようにいつも海の向こうを見ながら「島があったぞー!」などと叫ぶ。海賊の財宝はどこか遠い島に、海の向こうの無人島にあると思っているのだろう。灯台下暗しとはまさにこのことだが、人というのはそういう生き物なのだ。彼らにとっての地元は、私にとっては途方もなく世界の向こう側であるし。
深い。この事実は、なんだか示唆に富んでいる。
れいは村へと戻った。聞き込みをしよう。
「海賊の財宝の洞窟はどこかわかりますか?」と尋ねるのはまずいだろう。間接的に訊かなければ。
子供たちは「ほら穴」という言葉を使っていたな。
宿屋の主人などに尋ねると、「何でだ?どうするのだ?」と根掘り葉掘り聞かれそうだ。だから村ですれ違う人を捕まえてみる。「ほら穴はどこにありますか?」と尋ねると、やはりあると言う。「とても寒いから、凍え死ぬぞ!」と警告された。鍾乳洞は確かに寒い。そして南国の海で暮らす者たちにとってはなおさら寒く感じるのだろう。しかしれいには防寒具がある。
子供が言っていたように、村からは少しサマンオサ方面に逆行するようだ。そして内陸に入る。
アドルというのは何者なのだろう?尋ねてみると、アズランの街にそういう名の富豪が居るという。
詳しい場所はわからないが、行ってみるか。
いつもは色々な人に情報を訪ねながら歩けばよいが、今回は極秘ミッションである。大した情報もないのに、誰にも聞けない、話すことも出来ないまま行かなければ。すると益々ハラハラする。
プカシェルから北へ戻る。そして内陸へと入っていく。小高い山が見えてくる。あれが洞窟を抱えているのではなかろうか。まずはとにかく山へ向かって歩く。文明の発達していないプカシェルの人々が洞窟に行ったことがあるということは、人が訪ねて見つけられないものでもないはずだ。するとまずは山を目指して正解なのだろう。
山へと延びる道は一向に見つけられない。しかし、訪れる人間がごく稀にでもいるのなら、そこに少々の轍は刻まれるものである。足元を見ながら歩いていくと、やがて山のどちらに行けばよいのかなんとなく誘導されていく。
そして歩き続けると・・・