エピソード178
しばらくは、ロイドの窃盗団が復讐とか奪い返しとか企てる懸念がある。れいは戦闘訓練も重ねたかったので、用心棒を兼ねてさらに数日、この街に滞在した。マヤはそれをとても喜んだ。
ある日の朝。れいの部屋の窓枠に、突然何かが飛来した!
なんだ?と思って見ると、鳥だ。ロイドではない、でも美しい鳥だった。首に何かを括りつけている。手紙のようだ。
れ「私に、手紙・・・?」
れいがそれを受け取ると、鳥はもう去っていってしまった。
れ「あ・・・!」しかし問答無用だ。
れいは米粒のように小さくなった鳥を見送って諦めると、ドキドキしながら手紙を開けてみた。
なんと・・・!!
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親愛なるれい
あなたに、マスタードラゴンから天空の城へ招待状が届いています。
私たちガーデンブルグの民は、あなたを送り届ける仲介者の役割を任されました。
天空の城へはどうやって行くのか?方法については私たちにお任せください。
ただし、重要なポイントがあります。
竜の月の11日にこの城を出発しないと、天空の城に辿り着くことが出来ません!
それまでにれい、ガーデンブルグに戻っては来れますでしょうか?
あなたのお友達も楽しみに待ちわびていますよ。
ガーデンブルグの女王
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なんと、ガーデンブルグの女王から、天空の城への招待状だ!
「戻っては来れますでしょうか?」と尋ねておいて、こちらの意思を伝える鳥はもう飛び立ってしまった。れいに伝書鳩を扱う能力などない。
れ「これって実質、期日までに何がなんでもガーデンブルグに戻れってことよね・・・」れいは苦笑し、頭をかいた。
いや、それは横暴なところもあるが、なにしろその目的がマスタードラゴンの住む天空城への渡航である。
こんな貴重な通行手形を賜った人間は、おそらく世界広しと言えどもほとんどいないのだ!
苦笑いしている場合ではない。光栄であることを理解しなくては!
れいはドタドタとリビングへと降りていき、「今日は何日?」と宿の店主に尋ねた。
宿「今日は花の月の11日だよ」
すると、ちょうどあと1か月だ。
れいはガーデンブルグからここまでの道のりを振り返ってみた。何日かかったんだっけか?無駄に滞在した期間もあるし、まっすぐ進んできたわけではないし・・・なんとなくの計算では、1か月あればガーデンブルグに戻れる気はする。
れいはドタバタと準備をし、その日の午前中に宿をチェックアウトすることにした。
れ「手紙、か」
れいはふと思いついた。
この宿に到着した日、昼寝するマヤの寝息を聞きながらチルの絵を描いたが、それに小さな文を添えた。
そして、マヤに託した。
れ「ねぇマヤ?いつかもし、この宿に、リッカっていう女の子が来たら・・・この手紙を渡してくれる?れいからだよって。
大丈夫。リッカも良い子だから」
マヤはぽかんと口を開けながら、手紙を受け取った。
マ「ふうん。何が書いてあるの?」
れ「ふふふ。チルの似顔絵が描いてあるだけよ。リッカは虹色の鳥さんに会いたがっていたの」
ガーデンブルグに戻る途中に、東メボンに寄って渡すという案も考えたが、あの遺跡に何度もうろつくのは良いことではないだろうと配慮した。リッカとはまたやりとりがしたいが、あの子が外に出てくるのを待たなくてはいけない。
その可能性がある、と今のれいは思う。
またはマヤが、地底都市のリッカという人間の噂を聞いて、そこに冒険に出掛ける可能性もある。どちらでもよい。
自分も、セーニャも、リッカも、そしてこのマヤも、なんだか似たところがある気がする。それぞれ、先駆者の背中を見て、自分の町を飛び出したくなる。きっと。
私たちはいずれも、勇者様のような聡明で勇敢で万能な雰囲気ではない。でも、勇者以外は旅立ってはいけないのだろうか?そんなはずはない。
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