エピソード27
思いがけない方法で《メラ》や《キアリー》を会得して、「魔法というのはこんなに不思議で刺激的なものなのか!」とれいは震えたが、実はそうでもない。
普通の魔法使いや僧侶は、師匠に付きながらもっと安全に魔法を習得していく。こんなドラマチックないきさつで《メラ》を習得する魔法使いなどほとんどいないし、こんな推理小説のごときプロセスで《キアリー》を習得する僧侶はほとんどいない。
れいはかなり特殊だったが、そんなことは知る由も無かった。
冒険に無知であるがゆえ、れいの冒険は人一倍ドラマチックになっているのだった。
もう戦う体力が空っぽなので、フレノールの町に戻る。
道具屋で《毒消し草》や《聖水》を買い足す。
旅先では教会に行くべきだ、とテンペのシスターに聞いたことを思い出し、フレノールの教会を探してみた。
南のはずれに教会はあった。
静かな素朴な教会は、人の姿がなかった。神父がいないのである。講壇のところにはもう1つ扉があり、そこから外の光が射している。れいはそこへ歩いてみた。
前の扉の向こうには小さな畑があり、神父は畑で野良仕事をしているのだった。
れ「あのう。すみません」
神「おやおや、これはこれは!お祈りですか?」野良仕事から顔を上げ、室内に入りましょうとれいを促した。
神「いやいやお祈りに来る住民も少ないものでしてね。暇が長いですから、農業でもするのです」
れいは今日の冒険の内容を報告することにした。
れ「戦っている最中に、体が青白く光りました。
『毒消しの魔法を覚えた』という感覚がしたんです。なんとなくですが。
そして試しにえぃっと念じてみたら、本当に毒を消すことが出来たんです。こんなことってありますか?」
神「えぇ、ありますよ。戦闘を重ねることで魔法を覚えることもあります。
あなたが会得したのは《キアリー》でしょう」
れ「《キアリー》?」
神「えぇ。解毒の魔法です。《毒消し草》と同じ効果ですよ。
まぁ《キアリー》を覚えても《毒消し草》は1つ2つ携帯しておいたほうが良いですけどね」
れ「先ほど《メラ》や《ヒャド》の魔法を伝授してもらって、そしてその後すぐ《キアリー》を覚えました。
急に私、魔法使いっぽくなってきました」
神「《キアリー》は魔法使いではなく、僧侶の魔法ですがね。
それに《サフランローブ》なんぞ着てますし、穏やかなお顔をされてる。
魔法使いというよりも僧侶に見えますがね」
れ「えぇ!?」れいは意外なことを言われて驚いた。僧侶のようだと?
そもそも僧侶が眼中になかった。ローズの影響から魔法使いを追いかけたかったし、児童文学の影響からは魔法で悪者をやっつける自分に憧れていた。
れ「魔法使いになりたいと思って、冒険に出ました」
神「えぇえぇ。あなたの好きで良いのですよ。
しかし僧侶だって攻撃魔法も使いますし、魔法使いみたいなものですな。
破壊をしたいのか癒したいのか、気質によって素質が左右されるものかなと感じますよ。
あなたは僧侶寄りの気質の人かなと見えますけど、まだ若いですしね。私が決めつけることでもありませんな」
れ「そうですか」
神「そういえば、この町に2軒あるうちの、古ぼけたほうの宿屋はね、ロビーに魔法の本を置いてましたよ。初歩的な魔法の解説をした本だったと思います。あなたにとっては役に立つかもしれませんね」
皆優しいものだ。
れいの頭の中は、また大きく広がった。
「僧侶」というものを改めて認知しはじめた。知っていたようで知らなかったのだ。
「私は魔法使いよりも僧侶に向いている?」そう言われてハッとした。
そして、教会にお祈りに行くというのはこういうことなのだな、と体感的にわかってきた。今日の出来事を報告するというのは、すなわち対話だ。そして人生の熟練者は、私に気づかない見解を色々と授けてくれる。
私の冒険の書は、何ページになったのだろう。
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