top of page

エピソード41 『首長の村の掟 -真実の物語-』

僕らは、集落を、更に奥まで歩いた。

土産物屋は途切れてきて、子どもの姿を、多く見るようになった。



奥には、小学校があった。


特に何の規制も掛けられていなかったので、

僕らは、中に入ってみた。

土着民の学校にしては、かなりしっかりしていた。

壁には、紙に書かれた絵なども、貼られていた。

土着民にとっては、普通紙すら、貴重品であるはずだ。

この集落に限っては、生活資源は、豊富にあるのだ。

生活資源は豊富に、「買える」のだ。


教室には、

机や椅子も、並んでいた。黒板もあった。

先進国と同じような教育が、行われているようだった。

ある教室の黒板には、

アルファベットの大文字小文字が、

書き順を添えて、大きく、描かれていた。

もう、英語の勉強を始めている。

観光民俗である彼らにとって、英語力は、欠かせない武器なのだ。



子どもたちは、

ギターを背負った、見知らぬ旅人の来訪に、

えらく興奮した。

すでに放課後だったらしく、自由に遊べた。

しばし、全てを忘れて、戯れた。



子どもたちの瞳は、まだ、濁っていなかった。

自分たちが、「観光民俗」という、特殊な立場にあることは、

まだ、自覚していないようだった。

自覚していないから、幸も不幸も、無い。

他の地域の子どもらと同じように、

ただただ、毎日を楽しんでいるだけだった。



僕らが戯れているのを、

ドアの影から、

3人の、中学生くらいの女の子たちが、見ていた。

「彼女たちなら、会話が出来るかもしれない」

と思って、声を掛けてみた。

特に警戒もせず、快く応じてくれた。


僕は、尋ねた。

「この村の大人たちは、

 首にリングを着ける暮らしを、喜んでいるのかい?」


3人は、顔を見合わせた。返答に困ったようだった。

そのうちの1人が、重い口を開いた。

「それは、

 大人たちの表情を見れば、わかるんじゃないかしら…」


…つまり、

大人たちはもう、完全に、

金儲けに中毒しているということだ。



「…じゃぁ、

 キミたち自身は、首にリングを着ける暮らしを、望んでいるの?」


「いや?全く。」

今度は、即答だった(笑)



子どもたちは、誰も、

このような暮らしなど、望んでいないのだ。

しかし、

「商品としての価値が出始める年齢」になってくると、

大人たちに、強制されるのだろう。

そして、

イヤイヤやっていたのが、

いつしか、金儲けの魅力に、盲目してしまうのだ。



彼女たち3人の目は、

とても純粋で、でも、憂いを秘めていた。

「助けて!レッグチェーンを外して!!」

と、懇願しているように見えた。


僕にしてあげられることは、何一つ、無かった。


…こうして、

真実を皆に発信すること以外は。


2012/07/22 完筆


『首長の村の掟 -真実の物語-』



最新記事

すべて表示
bottom of page