僕らは、集落を、更に奥まで歩いた。
土産物屋は途切れてきて、子どもの姿を、多く見るようになった。
奥には、小学校があった。
特に何の規制も掛けられていなかったので、
僕らは、中に入ってみた。
土着民の学校にしては、かなりしっかりしていた。
壁には、紙に書かれた絵なども、貼られていた。
土着民にとっては、普通紙すら、貴重品であるはずだ。
この集落に限っては、生活資源は、豊富にあるのだ。
生活資源は豊富に、「買える」のだ。
教室には、
机や椅子も、並んでいた。黒板もあった。
先進国と同じような教育が、行われているようだった。
ある教室の黒板には、
アルファベットの大文字小文字が、
書き順を添えて、大きく、描かれていた。
もう、英語の勉強を始めている。
観光民俗である彼らにとって、英語力は、欠かせない武器なのだ。
子どもたちは、
ギターを背負った、見知らぬ旅人の来訪に、
えらく興奮した。
すでに放課後だったらしく、自由に遊べた。
しばし、全てを忘れて、戯れた。
子どもたちの瞳は、まだ、濁っていなかった。
自分たちが、「観光民俗」という、特殊な立場にあることは、
まだ、自覚していないようだった。
自覚していないから、幸も不幸も、無い。
他の地域の子どもらと同じように、
ただただ、毎日を楽しんでいるだけだった。
僕らが戯れているのを、
ドアの影から、
3人の、中学生くらいの女の子たちが、見ていた。
「彼女たちなら、会話が出来るかもしれない」
と思って、声を掛けてみた。
特に警戒もせず、快く応じてくれた。
僕は、尋ねた。
「この村の大人たちは、
首にリングを着ける暮らしを、喜んでいるのかい?」
3人は、顔を見合わせた。返答に困ったようだった。
そのうちの1人が、重い口を開いた。
「それは、
大人たちの表情を見れば、わかるんじゃないかしら…」
…つまり、
大人たちはもう、完全に、
金儲けに中毒しているということだ。
「…じゃぁ、
キミたち自身は、首にリングを着ける暮らしを、望んでいるの?」
「いや?全く。」
今度は、即答だった(笑)
子どもたちは、誰も、
このような暮らしなど、望んでいないのだ。
しかし、
「商品としての価値が出始める年齢」になってくると、
大人たちに、強制されるのだろう。
そして、
イヤイヤやっていたのが、
いつしか、金儲けの魅力に、盲目してしまうのだ。
彼女たち3人の目は、
とても純粋で、でも、憂いを秘めていた。
「助けて!レッグチェーンを外して!!」
と、懇願しているように見えた。
僕にしてあげられることは、何一つ、無かった。
…こうして、
真実を皆に発信すること以外は。
2012/07/22 完筆
『首長の村の掟 -真実の物語-』