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エピソード44

列車がダハブに到着すると、

駅前には、公共交通機関が無かった!!

仕方ナイから僕は、一人タクシーに乗って、

ダハブ・ビーチの安宿に、運んでもらうコトにした。

ダハブでは、宿の情報がサッパリ無かった。

カイロの安宿の「情報ノート(旅人たちが自由に書き込む、情報交換帳)」で、

一つ、オススメの宿が挙げられていたから、

とりあえずそこに連れて行ってもらおうとしたんだけど、

タクシーのおっちゃんは、

「その宿は、もう潰れたよ。

 オレが違う宿を紹介してやろうか?」

と、言ってきた。

この、

「その宿は潰れちゃったから、違う宿を紹介してやる」

というフレーズは、悪質な客引きの常套句として、有名なんだ。

彼は、

「イヤ、本当だって!

 オレは宿の客引きなんかやってないよ!」

と、真剣な顔で言っていたけれど、僕には信用出来なかった。

僕は、

「潰れててもイイから、その宿に連れてってくれ!」

と、毅然とした態度で言い続けた。

彼は、

「ソコで一回タクシーを降りちまうと、

 再びタクシーを拾うのは、相当キビしいぜ?イイのかい?」

と、神妙な顔で言ってきたけれど、僕は意見を変えなかった。

彼は、

少し…いや、かなり、キゲンを悪くした。

僕をそのゲストハウスに降ろして料金を受け取ると、

一目散に、走り出してしまった…


…彼の言う通り、

情報ノートに書かれていた宿は、もぬけの殻で、潰れていた…


僕は、通りに出て、

タクシーか若しくは、ヒッチハイクをさせてくれる車を待ったけれど、

通りかかる車はあれども、止まってくれる車は、さっぱりなかった…

30分待ってもダメだったから、歩いて宿を探すことにしたよ。

ビーチ沿いには、幾つか宿があるハズさ。

それも見込んだ上で、その潰れてるかもしれない宿に運んでもらったんだよ。

仮にそこが潰れていたとしても、

隣か向かいに1つや2つは安宿があるだろうからさ。

安宿ってのは、群がるんだ。秋葉原の家電屋みたいにさ。



でも、僕の予測は当たらなかった。

その宿は珍しく、一匹狼な宿だったんだよ。秋葉原じゃなかったんだ。

そういうわけで、炎天下の中を、

重い荷物を背負いながら、あてもなく歩き続けなきゃならなかった。

30分も歩くとようやく、一軒のゲストハウスを見つけた。


僕は、

車通り側の入り口から、敷地に入ってみた。

かなり部屋数・ベッド数のある、大きなゲストハウスだった。

受付の建物を見つけ、中に入ると、

ケビン・コスナーみたいなガタイのイイ初老のおじさんが、

サングラスで瞳の曇りを隠して、笑顔で僕に握手を求めた。

「どこか安い部屋に泊めておくれ」と言うと、

彼は、「10」の札が付いたキーを僕に渡して、

「ジブンで10番の部屋を探してくれ」と言い放った。


…こんなに不親切なゲストハウスは、初めてだった…


僕は、彼の不親切な対応に、「あれ?」と怪訝に思いながらも、

何も言わず、「10」の部屋を探した。

ウロウロすれば、すぐに見つかった。

それは、

白く塗られた壁を持つ、4畳半ほどの個室だった。

部屋の中に、「Piece!」という文字と虹の絵のラクガキがあったのを、覚えてるよ。

僕は、そのラクガキを見て、少し上機嫌になった。

「いやー!長いこと歩いてきて、良かったなぁ」

と、独り言を言った。


あんまり眠って無かったから、一眠り、しようと思った。

リュックやギターを部屋の隅に置いて、ベッドに寝転んでみると…

…??

なんか、寝心地が悪いぞ??

快適に眠れそうもナイので、

布団をひっぺがして、ベッドの床板を確認した。

…やっぱり!!

足の部分が3枚、腰の部分が1枚、

ハデに、床板が抜けていたんだよ!!

「ぜーんぜん『Piece!』な部屋じゃナイやぁ」

とふくれっ面をすると、

荷物をまとめ、キーを持って、受付に向かった。


受付では、

さっきのケビン・コスナーが、

扇風機の風を独占しながら、ノンキにテレビを見て笑っていた!!

「あれ!?

 忙しいから、僕をほったらかしにしたのかと思ったのに…」

と思ったけど、口にはせず、こう言った。

「おじさん、

 10番の部屋、ベッドの底が抜けてるから、

 違う部屋にチェンジしてもらってもイイ?」

「あ?なんだって?」

「ベッドが、壊れてるんだよ。」

「何言ってんのか、よくわかんねぇなぁ。」

と言って、テレビをチラチラ気にしている。

僕は、ため息をひとつ付く。

「とりあえず、

 一緒に部屋を見に来ておくれよ?」

僕は、怒らずに、淡々と、言った。

僕は、

宿の設備に不備があっても、怒ったりはしないんだ。


ケビン・コスナーは、渋々、僕に着いてきた。

部屋に入り、虹色の布団をひっぺがして、

ベッドの壊れ具合を見せると、

「なんだ、コレぐらい、大したことナイじゃないか!」

と、吐き捨ててきた!!

「だいたい、

 まだ眠る時間じゃねえぞ?問題ねぇだろう?」

と、ワケのワカンナイことを言ってる!!


…コレはサスガに、怒らないまでも、

「声を張る」必要性が出てきた!!

「まず、僕は今、眠りたいんだよ。朝でも、寝たいんだ。

 で、今眠ろうとしたからこそ、

 ベッドが壊れてるってことに気付けたんだよ?

 夜中になってから気付いたんじゃ、もっと問題になってたよ!?」

「…で?

 ジャパニーズは何が言いたいんだ?」

「壊れてないベッドの部屋に、チェンジしておくれよ!」

ケビンコスナーの横暴は、まだ続く。

「オマエ、金を払ったんだから、

 チェンジもキャンセルも、ねぇだろう!」

「えー!?

 部屋の案内もせずに、何言ってんのー!!??

 チョっと、

 僕もう、おじさんのゲストハウスには泊まれないや。

 返金してくれる?」

「は?知らねぇよ。

 オマエの都合だろう?

 出ていくのは結構だが、返金は受け付けない。」


僕は、

こういう悪徳商人のカンタンな撃退法を、即座に思いついた♪

「あ、そう?

 じゃぁ、日本のガイドブックの会社と、

 ロンリープラネッ○(世界的に有名なガイドブック)に、

 今おじさんが言ったこと、報告するわ♪

 じゃぁ、Good bye♪」

と、荷物を持って出て行こうとすると、

「オイ、待て!」

彼は、僕の手を引きとめ、

急に、借りてきたウサギみたいに、猫よりも大人しくなっちゃった(笑)

「返金する。

 …チェンジするにも、部屋が他に空いてねぇんだよ。」

彼は、そう力なく呟いた。

僕は、10ポンドばかしのはした金を受け取って、

この宿を出てきた。ビーチ側から、出た。



…宿に不備があっても、

怒ってクレームを言いにいくのは、良くナイよ?

かと言って、

何かの不備に対して、

泣き寝入りするのも、良くナイんだ。

事なかれ主義は、良くナイんだよ。


なぜかって?

次のお客さんだって、困っちゃうからさ!!

だから、

不備の改善が見込めないにしても、「不備の報告」くらいは、

きちんと、毅然と、行っておいたほうがイイのさ。

覚えておいておくれよ?

日本人ってのは、世界で一番、事なかれ主義な民族だからなぁ。


それと、

もう一つ、重要な傾向を、伝えておきたいと思うよ。

たくさんの部屋を抱えているのに満室になってしまうほどの人気宿は、

スタッフがお高く止まっていて、不親切であることが、多いんだなぁ。

別に、客一人逃したところで、宿としてはどーってことナイからさ。

でも、そんな彼らは、気付いてナイんだよ。

情報化の著しいこの21世紀、

たった一人の旅人の言動が、

ゲストハウス一軒を赤字に追い込むコトなんて、カンタンなのさ(笑)

このゲストハウスの受付ルームには、

世界各国の言語で、

「この宿は、安くて、フレンドリーで、素晴らしいところです♪」

なんて感想書きが、腐るほど貼られていたんだけどさ?

こういう、いつの感想だかワカンナイ「ナマ(腐り)の情報」は、

サッパリ、アテにはならないのさ(笑)

10年前は確かに、良心的な経営をしてたのかもしれないし、

スタッフによって対応が激変するのかも、しんないよ?

でも、

一番確かな情報は、

ジブンの目の前の状況から判断するしか、ナイのさ。

実際問題として、

人気すぎる宿や人気すぎるレストランやなんかは、

ひどく落ちぶれてしまっていることが多いよ。ぜんぜん魅力的じゃない。

または、無難な店ではあるんだけれど、あくまで「無難」でしかない。

もっと安くて良い店が、他に腐るほどあるんだよ。

日本人は世界で最もミーハーな人種だから、

口コミと実物とのギャップを、判別できない人が多いらしいね。



…逆のことも、あるんだよ?

とても良心的な経営をしてるゲストハウスが、

ひょんなことから、

たった一人の旅行者の、誤解や怒りを買っちゃうことがある。

その旅行者が、カンチガイや腹いせのために、

「真実ではナイ情報」を、ガイドックの会社や、ネットや、「情報ノート」にばら撒くなら、

とても素晴らしい宿が、

ガイドブックから消え去り、潰れてしまうことも、有り得るのさ…!!

だから、いつだって、

「自分の感情論」や「早とちり」を勢い任せにぶつけるんじゃなくて、

真実に目を凝らして、真実を発信するように心掛けなきゃ、

いけないよ?



『導かれし者たち』

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