エピソード48
ルマの町から馬車道沿いに進むと、新しい町は発見出来た。
また町の向こう側には小高い丘が見える。しかし今度はお城など立っていないし、森で覆われてはいない。
デ「鉱山で栄える町、だろうな」とデイジーは言った。
町に入ってみると、その通りのことを町民たちは話した。幾つかの種類の鉱石が採れるらしい。
ここはスタンシアラという名の町だ。
なにしろ家が石であった。ここの住民の家々は、石を積み上げて泥で固めて造られていた。
原始的、という印象も受ける。隣のルマの町の娘たちなどは毛嫌いしそうだ。しかしれいは、異国情緒に溢れて面白い、と思った。家の中はどうなっているんだろう。気になる。
ガタイのよい男が多い。鉱山で生業を立てる家庭が多いのだろう。そしてその息子。
町を眺め歩きながら、デイジーはれいに尋ねた。
デ「金策の方法は心得てるか?」
れ「魔物と戦うことくらいしか」
デ「鉱山の町を見つけたら活用するといい。冒険者ならではの金策が出来る」
れ「鉱山に入って採掘するっていうこと?」
デ「あぁ。採れるものによるが、こぶし大の石でも数千ゴールドになることがある」
れ「そんなに!」れいは魔物退治で1,000ゴールド稼ぐのにどれだけ汗をかいたことか。
デ「1つコツがある。麓の町では売らないことだ。
どこも原価でしか買い取ってくれないからな。
遠く離れた町に行ってから、道具屋なり宝石屋なりに売る。すると高い値が付く」
れ「部外者が勝手に入っていいの?」
デ「場所による。が別に麓の町が山の所有者なわけじゃないからな。
または『アルバイトで今日雇われた』とかなんとか言って潜り込めばいい」
れ「そんなことしていいの?」
デ「地球の公共物である鉱山を独占しようとしている悪い奴らには、嘘で対抗するしかない」
したたかな人だ。
行ってみるか、ということになった。
一晩休息して、翌日は鉱山に出発だ。
行きしな、れいはデイジーに尋ねた。
れ「デイジーはあまりお金を使わなそうだけど、金策が必要なこともあるの?」
デ「探している《はやぶさの剣》は、大金を積まないと買えない可能性もあるからな」
れ「そうか」
デ「盗んだ本人に出くわせば腕づくで奪えばいいが、持ち主が回り回っているなら『返せ』は通用しない。
自分の家系のものだがカネで買わなければならん。場合によっちゃ盗むがな」
したたかな人だ。「で、デイジーは、悪い人・・・?」れいは恐る恐る聞いた。
デ「悪い人だ。と思っておいてくれ」
悪い人とも限らない、という意味になる。
デ「相手によって変えるつもりでいるが、ほとんどの奴が悪人に見えるからほとんどオレは悪態を付く。悪さをしないにしても行儀が悪い。
・・・だかられいは、オレとずっと旅しようなんて思わないほうがいい。おまえの評判も悪くなる」
れ「ふふふ。私もお尋ね者だけどね」
デ「なんだって!?」デイジーは山の城で事件に遭遇したとき以上に驚いたリアクションを見せた。
れいはサントハイムで遭った出来事を話した。
デ「おまえ・・・偉いな」
れ「偉いのかどうか・・・。思いつきで行動してしまっただけです」
デ「オレは慎重に考えた上で悪いことをするがな。はっはっは」
れいは、道中で人助けをすることも増えてきたが、自分を善人だとは思っていなかった。社会不適応者だと思っているし、ならず者だと思っている。
れいはデイジーに、そうつぶやいた。
デ「知ってるか?
勇者は、自分を勇者だとは思っていないもんだ。
自分は社会不適応者だと思っているし、ならず者だと思っているよ。
勇者『様』なんて呼ばれる立場じゃないと思っている」
れ「そうなの!?
勇者って、万能な戦士のことじゃないの!?」魔法も使える格好いい戦士のことを、勇者と言うのかと思っていた。
デ「勇者ってのは、称号に過ぎないよ。自分で勇者を名乗ってる奴も居るにはいるんだが、そういうのは偽物だ。
たくさんの人助けをして、そのうえ魔王まで倒しちまった奴のことを、世間は『勇者様』と讃えた。勇者という言葉の本当の意味は、そうだ。
今では勇者ってのは、誰でも名乗れるようになっちまってるがね。偽のカリスマが大勢いる」
れ「称号に過ぎないのね。勇気があるから勇者、っていうことか」
デ「勇気だけじゃ済まないよ。強い必要もあるし、賢い必要もある」
れ「そうなのね」私には関係のない話だわ。いつか勇者様のお手伝いくらいは、少しでも出来たらいいなぁ。