エピソード51
町に戻り、夕飯を食べる。
宿に戻ったが、「たまには夜の町を歩いてみるか」とデイジーが提案した。
れ「私、夜の町ってあまり好きじゃないんです」
デ「だからこそ、オレが居るときに経験しておいたほうがいいだろう」
たしかに。こんなに心強いボディーガードはいない。
そして、バーなるものに入ってみた。
町の男たちが陽気に盛り上がっていた。女は少ない。酒を呑み、味の濃いつまみを頬張っている。
昼間のスタンシアラを眺めているぶんには、この町の男たちはとても真面目で朴訥に見えたが、夜のバーの男たちはガラッと印象が違った。こうやって男は本当に変化するのだな、とれいは理解した。
デ「食べきれなくてもいいから、興味あるものを食べてみろよ」とデイジーはれいに提案した。
れいはパエリアというものを食べてみた。海鮮がたくさん載ったコメ料理である。れいは山育ちなためか、シーフードがあまり得意ではない。魚は食べられるが、エビやカニ、貝や肝に臭さを感じて好まない。しかしこのパエリアというのを、どの町でも皆が美味しそうに食べているのを見ていた。
やはりれいには磯臭くてあまり食べられなかったが、デイジーが残さず食べてくれた。「こういうものか」とわかっただけで、れいは満足だ。
やがて、バーテンダーが小さなカクテルのグラスを運んできた。
バ「あちらのお客様からです」
バーテンダーが指し示す方向を見やると、キザな男がこちらを見て微笑んでいる。
このようなナンパが本当にあるのか!本の中で見知ったシチュエイションが現実に起きて、れいは失笑した。れいにとってはとてもくだらなく見える。こんなナンパに応じる女が本当にいるのか?
デイジーは「オレは男だ。寄るな」と相手の目も見ずに言った。
男「なんだ、野郎か」ナンパ男はつまらなそうに引っ込んだ。
男が去ると、れいはデイジーに小声で訊いた。
れ「こんなナンパに着いていく女が、いるの?」
デ「それなりにいるらしい。よく知らんが。
女たちは、男を馬鹿な野蛮人だと思っているが、そのくせどこかで男を欲しているんだ」
恋愛というのは、れいにはまだよくわからない。
店を出る。デイジーはれいのパエリア代をおごった。
れ「どうして?」
デ「食堂よりも高い店は、誘ったヤツがおごるもんだ。友達に高いカネを使わせるのは無神経だ」
夜の町を少し歩く。他の町よりは静かだ。
中央広場に行くと、いつぞやのようにまた吟遊詩人が一人ぽつんと歌っていた。
吟「魔法使いは~次の人生で~僧侶になるらしい~
戦士は~悟りを開くと~パラディンになるらしい~
剣を鍛冶屋で叩いて伸ばしてぇ~大きな盾にする~」
デイジーは吟遊詩人の足元に、100ゴールドを放り投げた。チップとしては凄まじく額が大きい。
デ「芸術家と冒険者は、どこか似ているよ」デイジーは唇の端だけで笑ってささやいた。