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第10章 たねときのみ

第10章 たねときのみ


週末が訪れた。

金曜日の夜20時になると、プレイヤーたちは一斉にアリアハン大陸に散らばっていった。

《女神の果実》はイベントモンスターである《トロピカルドラゴ》が稀にドロップするか、あちこちの宝箱やツボの中などに潜んでいる。ある者たちはとにかく《トロピカルドラゴ》を狩りに、またある者たちは宝箱やツボの探索に向かっていった。

リ「…よし、と。アタシたちも出発しましょ。プレイヤーとの情報交換でリサーチは済んだわ。


 おおありくい→ちからの種

 いっかくうさぎ→すばやさの種

 キャタピラー→まもりの種

 フロッガー→いのちの木の実

 まほうつかい→ふしぎな木の実


こいつらが木の実や種をドロップするから、とにかく狩りまくる!レベルも少しは上がるでしょ。あんまり強い敵じゃないから、ソロプレイでもどうにかなるハズよ。《まほうつかい》と《キャタピラー》だけはちょっと強いから要注意かな。

マ「なんかハムちゃんのエサみたぁ~い♪」

リ「イベント期間は1週間。それぞれ5つずつくらいゲット出来たらイイんだけどなー」


二人は、ときに一緒に、ときに一人で、目当てのモンスターを狩りまくった。アリアハン城下町からあまり遠出しないゆえ、他のプレイヤーからは脳天気な初心者プレイヤーに見えていた。

フィールドには時に宝箱が落ちており、そして小さな隠しダンジョンが見つかることもある。こうした探索により、《くさりかたびら》や《はねぼうし》などの初歩的な防具も手に入った。皆はもっぱら《トロピカルドラゴ》ばかりを狩っている。《トロピカルドラゴ》はノーマルドロップに《やくそう》、レアドロップに《女神の果実》を落とすだけだ。他のプレイヤーも茂みに宝箱を見つけたり、小さな隠しダンジョンを見つけたりもするが、リオとマナのほうが格段に多種類の収穫を得ているのだった。


4日目の夜。

アリアハンの町から北西に遠く離れた草原で、マナたちはまた宝箱を見つけた。

マ「なんだぁ。また《くさりかたびら》かぁ」マナは悲しんでいる。

リ「いいじゃない?この辺りにしちゃ結構強いんだから」

マ「そうだけどぉ。もう装備してるじゃん。

 …ていうか、ぜんぜん魔法少女っぽい格好になってないよぉ」

リオは魔法少女っぽい格好でステッキをフリフリ出来ると思って、ドラクエ55を始めたはずだった。しかし、現実はいかにも芋臭い装備で野山を駆け回っている…。

マ「なんかダマされた気がするんですけどぉ~(泣)」

リ「あははは!じゃぁもう辞める?」

マ「やめないけどぉ~(泣)」

探索の楽しさを覚え、そして戦うことに慣れはじめたマナであった。


収穫は木の実だけではなかった。

特定のモンスターばかりを乱獲するというトガったプレイをしているゆえ、マイナーなスキルや特性の獲得もあった。

《おおありくい》を1000匹倒すと、特性《ありキラー》を獲得した。《ぐんたいあり》のように仲間を呼びまくるモンスターも、この特性持ちのプレイヤーの前では1度しか仲間呼びが出来なくなる。経験値稼ぎの裏ワザは使えなくなるが、全滅の危機は減る。

《キャタピラー》を1000匹倒すと、スキル《シールドアタック》を獲得した。防御しながら同時に打撃攻撃を行えるのだ。守りながら勝つ二人のプレイスタイルに相性の良いスキルだった。

レベルが少し上がっても、マナは相変わらずちからのパラメータを上げなかった。そして《バギ》ばかり撃っていた。すると、呪文攻撃を500ターン連続した際には、特性《まほうつかい》を獲得した。呪文のダメージが20%上昇する強力な特性だ!


リオの読みは上手くいった。

普通、RPGのプレイヤーたちは強力な武器で力任せに殴りつけることに爽快感を覚える。だからそれを目指し、それを繰り返す。しかしこのゲームは、もっとトリッキーなプレイや地味な行動を繰り返すことで、ユニークなスキルや特性を得られる仕組みになっているのである。そしてマナたちは、レベルやパラメータの見てくれ以上に強いキャラに育っていた。まだ二人にあまりその実感はなかったが。



『僧侶だけで魔王を倒すには?』

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