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第2章 しゅび力

第2章 しゅび力



城を出た二人は、アリアハンの城下町をキョロキョロと歩いた。

時々話しかけてみると、この町の人は誰もが親切で、にこやかな表情をしていた。冒険の初心者に役立ちそうな情報を教えてくれる。いや、当たり前すぎて役に立ちそうもないことまで誇らしげに話してくれる。

リ「はぁ~、『武器は装備しなきゃ意味がないぜ』なんて、今どき知らない少年少女がいるのかしら?くだらないハナシをしないでほしいわ」

マ「それなら話しかけなきゃいいのに~?」

リ「そういうわけにもいかないわよ。55特有のルールについて話す人もいるでしょう。あまり皆が気づかないお役立ち情報をくれる人もいるし」

マ「ふぅん」

リ「アンタもたまには話しかけてみなさいよ」

マナは、軒下に座り込んでお茶をすすっているお爺さんに、話しかけてみた。

マ「こんにちは。いいお天気ですね」

爺「ふぉっふぉっふぉ。無意味そうに思えることにも意味がある。意味のないこともあるが、大抵は意味がある」


二人は春のような柔らかい日差しを浴びながら、町はずれにある酒場を目指した。

55では、「パラメータポイントの振り分け」によって強さの個性化が図られるらしいのだ。同じ僧侶のレベル1でも、パラメータポイントを《ちから》に振るか《すばやさ》に振るかで、個性が変わってくる。その初期設定は旅人の酒場で行うらしかった。


カランカラン。階段を降りたところにある古びた扉を開くと、少しカビ臭い匂いがした。

マ「匂いってあるんだぁ。バーチャルの中にも」マナはつぶやいた。

リオは、酒場という未成年には不慣れなはずの場所にも、物おじしていない様子で扉をくぐっていった。

ル「いらっしゃい。ここは旅人の酒場よ。私はルイーダ。よろしくね」

リ「はぁい」

マ「どんなことが出来るんだっけ?」

リ「色々あるけど、今はまずパラメータポイントの振り分けね」

マ「わたし、痛いのヤだなぁ。それに戦うのもヤだよぉ」

リ「わかってるわよ。だから魔法職選んだんでしょ」

マ「そうよ。わたしが《ホイミ》でリオの援護してあげるから!MPに多めに振ればいいよね」

リ「そんな単純じゃナイわよ! ちょっと待って。まずはステータスの確認をしましょ。 

えぇと、ちからが3、最大HPが10…

 あそうだ!僧侶って何の呪文使えるのよ?」

リオはウインドウのページを進めて所持スキルを確認した。

リ「《バギ》と《ホイミ》。良かった!レベル1でもとりあえず回復呪文と攻撃呪文が使えるわ♪」

マ「おぉ。じゃぁやっぱMP多めでおけ?」

リ「いや…。アンタ、痛いの嫌なんでしょう?

 しゅび力に全振りしたらいいわ」

マ「しゅび力に全振り!?」

リ「そう。全振り。レベル5か6か…とりあえず序盤はしばらく、レベルアップのたびにしゅび力に全振りでイイわ。そしたら敵の攻撃受けてもダメージ受けないから♪痛くないわよ」

マ「やったぁー♪あ、でもそれじゃ敵を倒せなくなっちゃうよ?」

リ「大丈夫。アタシが付いてるんだから♪

 アタシはこうげき力にも振るし、ちからが3のままだって武器を装備すれば《スライム》くらい戦えるはずだしね。

 ていうか《バギ》があるんだからちから弱くていいのよ。最初のうちは戦士のこうげきより《バギ》や《メラ》のほうが強いわ。最初のうちは、ね」

マナはリオの言うとおりに、レベル1で与えられている15のポイントを、すべてしゅび力に振った。マナのしゅび力は18になった!

マ「18って強いの?弱いの?」

リ「とりあえず《いっかくうさぎ》の角くらいはノーダメージにできるはずよ。

 そんじゃアタシは…」

リオはこうげき力を多めに、それ以外をバランスよく振り分けた。

マ「リオも僧侶なのに、こうげき力に多く振るの?」

リ「アンタが接近戦嫌がるんだからしょうがないでしょ!

 アタシも接近戦でガチンコする気はあんまないけどね」

ル「お疲れさま。振り分けが済んだら武器屋に行くといいわ。今決めたあなたの個性に合わせて、最初の武器を選ぶのよ」


二人は薄暗い酒場を出て、再び永遠にも続きそうなのどかな日差しの中、武器屋を探した。

武「よう。ここは武器の店だ。どんな用だね?」武器屋のおやじは威勢よく言った。

マ「わたしマジカルステッキ!」マナは飛び跳ねるように言った。

リ「ナイわよそんな横文字の武器は!

 最初はイモくさいカンジの武器でガマンするの!」

マ「えぇ~つまんない(泣)」

武「僧侶のお嬢さんに合うのはこれだな。《かしの杖》だ。最大MPが5増えるぞ!」

武器屋は無骨な木の杖を持ち出して二人に見せた。

リ「アンタはそれにしときなさい。アタシはこっちにするわ」

リオはそう言うと、《くだものナイフ》を手にとった。

マ「それは盗賊とかが使うやつじゃないの?」

リ「そうよ。普通はね。

 でもアタシはアンタのために、物理攻撃のできる天才僧侶にならなきゃならないからね。アンタのために!」

マ「ふうん。カッコいいよリオぉ!」

リ「今さらおだててんじゃないわよ!

 僧侶だって少しは剣とか装備できるのよ。軽めのやつなら。覚えておきなさい」

武「《かしの杖》は70ゴールド、《くだものナイフ》は50ゴールドだ」

王様から貰った支度金は1人100ゴールド。武器を1つ買えばもうあまり残りはないようだった。

武「武器は装備しないと意味がないからな!」

リ「うっさいわよ!もう!」


武器屋の先の十字路には、立札が立っていた。リオは立札を読んだ。

「攻略法は一つではない!」



『僧侶だけで魔王を倒すには?』

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