第21章 コロシアム
審「組番号6番、13番の者たち、前へ!」
マ「わ、わたしたちだぁ!」
3人はゆっくりと前に出た。対戦相手は想像通り、強面な3人である。立派な鎧を身にまとい重厚な武器を持ち、いかにも強そうだ。残り者の僧侶3人組、というわけにはいかなかった。
審「はじめ!」審判は無機質に開始を告げる。なんと、負け仙人が一歩前へ出た。
負「どうも若いの。
わしは負け仙人じゃ。職業はぶとうか。
え?強いのかって?それは秘密じゃ」
衆「ぶあーっはっは!すっごい弱そうだぜ!」皆大笑いしている。
マ「なんかわたしまで恥ずかしいよぉ(汗)」
負「こりゃ、おぬしたちもあいさつせんか!
礼節は大切じゃ」
リ「え?あ、はい。
どうも。僧侶のリオです…」
マ「僧侶のマナですぅ(汗)」
負「それでよい」老人はニッコリ笑った。
負「さてと…。ふん!」
老人は短く息をすると、急に気合を入れた。緑のローブの上半身がばさっとひるがえった。
…ガリガリの貧弱そうな肉体が露わになった。
衆「ひゃーっはっは!ますます弱そうだぜ!おい、誰か武器を貸してやれよ!」あちこちから野次が飛ぶ。
負「優しいのぅ。しかし無用じゃ。
さて、開始でよいな?」
老人は自分の中で、眼差しにスイッチを入れた。
ブブン!
『特性《石の上にも三年》発動!
特性《遊び人》発動!
特性《ジャイアント・キリング》発動!』
マ「なななんかマケさん、特性がいっぱい発動したよ!?」
リ「強いの!?か、弱いのかよくわからない(汗)」
負「わしからいくぞ!太極拳!!」
老人の目つきが変わった!会場の皆がハッとする。
何かすごい技を繰り出す…かと思いきや、老人は体をゆるゆるとクネクネと動かし、ゆっくり妙な踊りを踊っているように見える…。
負「健康増進じゃ。朝起きて公園でやると気持ちいいぞ?東の国のシャレた運動じゃよ」
衆「わはははは!やる気あんのかよ!」
リ「『ぶとうか』って、武闘家じゃなくて舞踏家だったワケ!?」
マ「マケさん、試合は始まっていますよぉ(汗)」
しかしそのとき、不意に負け仙人のHPが50回復した!
敵「なんだ!?」
負「《リホイミ》の効果じゃよ。
ターンごとにわずかばかり体力が回復する。若返ってもくれたらええのにのぉ」
敵の戦士はしびれを切らした。
敵「おまえらいくぞ!《きあいため》!」
敵「《スカラ》!」
敵「《ルカニ》!」
負「またわしが動いてえぇのか?しからば…」
すると今度は、先ほどとは打って変わって、素早い動きの奇妙なダンスを踊りはじめた!
負「わははは!《ステテコダンス》!!」
衆「わはははは!爺さん、大道芸人かよ!チップはやらんぞ!」
しかし、敵のプレイヤーはつられて踊っている!戦士の《きあいため》は無効化された。
負「ほれ今のうちじゃ!おぬしらも攻撃せい!」
老人はマナとリオに行動開始を促した。
負「あ、わしに《かばう》はせんでもえぇからな?」
マ「え!?」
リ「なんで《かばう》が使えること知ってるの!?」
負「ほれ、早く攻撃せんかい!わしはもう疲れた」
そう言うと老人は、後方に寝そべってしまった。
リオは戦闘態勢に入った。
リ「《メラミ》―!」自慢の火球が敵の僧侶に襲いかかる。
リ「マナ、MPの温存は不要よ!《バギ》で全体攻撃を!」
マ「わかった!《バギ》―!!」マナの《バギ》が相手全体のHPを削る。
敵「舐めやがって!」
戦士が斧で襲い掛かってくる!マナは素早くリオをかばう。
マ「うくっ!」マナは10のダメージを受ける!さすがにプレイヤー相手ではノーダメージとはいかない。
負「ほれっ」老人は寝転がったまま、マナに《やくそう》を投げる。
マ「ありがとう!」
リ「まずは僧侶をやっつけよう。《メラミ》―!」
敵「そうはさせるか!《マホカンタ》!!」敵の魔法使いは僧侶の前に、呪文を跳ね返す光のカベを生み出した!
リ「やばい!呪文がうかつに撃てないわ!
マナ、《刺のムチ》に持ち替えて!」
負「おやおや、もう苦戦か?もうちょっと眠ってたかったのぅ」
老人はしぶしぶ立ち上がったかと思うと、スっと敵僧侶の間合いに入った。そしてカンフーのような指先の小突きを入れる。
相手僧侶は倒れてしまった!HPが0になったらしく、戦闘不能の判定が入る。
敵「おいおい、あんなパンチで死ぬか?ちゃんとHP回復しとけよ!」
戦士は怒り、老人に向けて反撃に出る。
「手加減しねぇからな!《鉄甲斬》!」
マ「あぶない!」マナは《かばう》を使おうとする。
負「よいよい」マナの動きを制止するように手のひらを向ける。
戦士の攻撃が襲い掛かってくる。しかし老人は、寸前ですばやく身をかわした!
敵「なに!?」今度は速度重視で、コンパクトに斧を振りかざす!
しかし老人はすばやく身をかわした!
負「ふぉっふぉっふぉ。特性《遊び人》。身かわし率が上がっとるんじゃ」
敵「《ベギラマ》!」帯状の炎がこちら3人に襲いかかる。
リ「くくっ!《ギラ》じゃなくて《ベギラマ》なわけ!?さすがみんな強いわ!」
老人もダメージを受けているが、しかし自動回復によりあっさり傷は埋まっている。老人は反撃を仕掛ける。再びカンフーのような小突きで、魔法使いを攻撃!
敵「うぁ!」声を出す暇もなく、なんとまた、一撃で倒れ込んでしまった!そして戦闘不能の判定が入る。
敵「おまえらどうなってんだよ!しゅび力鍛えてなかったのか!」戦士は慌てはじめた。
敵側は、残るは戦士一人だ。
リオは《メラミ》を使った!もう《マホカンタ》で跳ね返される心配はないからだ。
敵「《ミラーシールド》!」戦士は立派な盾をかざすと、《ミラーシールド》の特技で《メラミ》を跳ね返してきた!
リ「うぐっ!」リオは自分の呪文でダメージを受ける。
負「ほれ、すぐに回復してやれ。もうHPがやばいぞ」マナに回復を促す。
そして今度はのそのそと戦士に近寄っていく。最後は素早く動いて戦士の懐に入り、そしてまた小さく小突いた。
敵「ぐはっ!」なんと、屈強かつまだHPが充分に残っていたはずの戦士さえ、その一撃で戦闘不能に陥れてしまった!
審「勝者、組番号6番!」審判がマナたちの勝利を告げる。
リ「勝った!のね…!?」
『僧侶だけで魔王を倒すには?』