第23章 あやかしのもり
二人は闘技場に戻り、残りの試合の様子を見守った。色々な冒険者たちが、色々な戦い方をしていた。それぞれがどこからか強力な武器を手に入れ、珍しいスキルを手に入れて戦っていた。「世界は広いな」と二人は思った。
やがて全ての試合が終わり、つまり冒険者の数が半分に削られた。
王様は広間に勝ち残った冒険者たちを集めた。そして玉座から演説を始めた。
「ねぎらいの言葉を送ろう。強き冒険者たちよ。
なまったこの城の兵士どもでは、《金のかんむり》の奪還は遅々として進まない。
そこで強者のそなたらには、冠の奪還の命を受けてもらいたい。
情報は得ておる。カザーブよりもさらに北、霧に煙る深き森の奥に、悪党のアジトがあると聞く。旅路は長く魔物は手ごわいが、この城で造られる強力な武器や防具があれば撃破できるであろう。
軍資金として、すべての冒険者に1,000ゴールドを与える。それを基に装備を整えるとよい。闘技場で資金を増やすもよい」
しかし、会場はざわつく。
衆「おかしいな。北の森には何もなかったぜ?」
衆「もっと奥にあるんだろうよ」
衆「なんか森の奥でまやかしが起こるなんて噂もあるが」
衆「《ラリホー》と《マヌーサ》を同時に喰らっただけだろ」
王「静粛に!
見事《金のかんむり》を持ち帰った者には、さらなる褒美をつかわす。金10万と《プラチナメイル》じゃ」
衆「おぉ、それならやる価値あるな!」
老「それで…。
あやかしの森から帰れなくなる冒険者を増やして、何がしたい?
冒険者たちに高額な武器を売りつけて、どこまで儲けたい?
王の所業とは思えんがのう」あの老人が王に歯向かった。
王「何やつじゃ。戯言を言うな。とっ捕まえろ」
兵「しかし…」
衆「おい!あの爺さん、舐めたマネしてすごい強いんだぜ!」
衆「たった一撃で戦士を葬り去ったぞ!」
会場はなおもざわつく。
老「ほっほっほ。有名人にはなりたくないんじゃがな。服を変えねば。
森の奥に住む者は、あの辺りに賊のアジトなどないと言っておった。どちらの言うことが正しいのか?魔物のような王と、人を傷付けないエルフと」
ざわざわ ざわざわ
衆「まさか、わざとギャンブルで俺たちを無気力にしたのか!?」
ざわざわ ざわざわ
王「はっはっは。もう無理か。
もう少し冒険者の数を減らしたかったが、色気を出し過ぎたようだ」
王の体を怪しい煙が包み込む。シュウウウウウ…
なんと、王の正体は巨大な《ウイングタイガー》だった!!
ウ「みんなまとめてかかってこい!八つ裂きにしてやろう」
すべての冒険者は身構えた!
《ウイングタイガー》は、大きな爪で豪快になぎはらった!
リ「いきなりレイドボスかぁー(汗)」
マ「お爺さん、また《毒針》でチクっとやってよ!」
爺「ふぉっふぉっふぉ。ボスには効かんよ。覚えておきなさい」
冒険者たちはそれぞれに全力で襲い掛かった。すでに戦い疲れていた面々だったが、正義の心は力を奮い起こさせる。頑強な城を激震させる死闘の末、冒険者たちはこのボスに打ち勝った。
戦いは終わった。
二人は老人に深々と礼を言った。老人は今度は紺色のフードを着ていた。
マ「あ、お爺さんアリアハンに帰るんでしょう?
そこまで護衛してあげようか?」
爺「いやいや結構。わし、弱くないからな」
マ「でもスタミナが全然ナイじゃない?」
爺「それも演技じゃよ。ふぉっふぉっふぉ。じゃぁな。」
マ「そっかぁ」
老人はあっさりと立ち去ろうとした。しかし振り返る。
爺「そうじゃ。おぬしらにこれをやる。《みかわしの服》じゃ」
老人はリオに、緑色のワンピースのような服を手渡した。
爺「わしが着とった服じゃ!」
リ「うげっ!」
爺「いやいや、冗談じゃ。それと同じものじゃよ。
守備力は鎧ほど高くはないが、身かわし率が上がる魔法の服じゃ。
そちらのお嬢さんが着ると良かろう」リオをあごで指す。
リ「ありがとう!でもどうして!?」
爺「わしは…」
しばらく続きを考えている。
爺「わしは、あいさつの良い若者が好きじゃからな」
マ・リ「え??」
爺「ふぉっふぉっふぉ。平和のために戦える者は少ない」
リ「勇者のタマゴは、あんなにたくさんいるよ?」
爺「平和のために、戦える者は少ない。
平和のために、戦わない者も少ない」
じゃぁな、と手振りをして、今度こそ老人は消えていった。
イベントが終わると、城は日常を取り戻した。
この城にとっての日常とはつまり、どうも血気盛んな強面たちが、ごつごつした武器防具や闘技場のギャンブルに興奮している様を言う。
そして城の2階に上がると、なぜか王は玉座に座り、《金のかんむり》を探してイライラしているのであった。
しかし広場の掲示板の前には、《旅の扉》が姿を現していた。イベントをクリアしたプレイヤーにだけ現れる、新階層へと続く転移装置である。二人は少しの緊張とワクワクを胸に、《旅の扉》に飛び込んだ。
マナとリオのステータス・その3
『僧侶だけで魔王を倒すには?』