第32章 めいさんひん
コッコッコッコッコ! コッコッコッコッコ!
鶏たちの鳴き声で、二人は目を覚ました。
まだ早朝の4時だったが、二人はそれもわかっていなかった。
夜明けとともに妻は囲炉裏に火を入れ、そして温かい朝食を作ってくれた。それを食べながら、また4人で会話をする。
リ「織り機造るのを引き受けてくださって、どうもありがとう!
ライドンさんは木工職人なんですか?」
肩を負傷した男の名は、ライドンと言った。
ラ「いやいや、僕は職人なんかじゃないよ。
この村の者は、年配者なら大抵、織り機くらいは自作できるさ。
農業もみんなやるし、機織りも料理もみんなやる」
マ「へぇ、すごぉい♪」
ラ「しかし、《水の羽衣》を織れる者は少ない。それこそ職人の技だ。
色々細かい技術を要するらしいが、少なくとも芸術の感性がいる。
以前はもう少し、《水の羽衣》の織り手がいたが、近年いなくなった」
リ「どうして?」
ラ「余所者が遠くから、それを求めて村に来るからだよ。
元々この村の者たちは、余所者に対してそう冷たくはなかった。
しかし、度が過ぎるってもんだ。僕たちにはそう感じた。
《水の羽衣》を織っていると余所者が来る。だから織らなくなった。カンタンな話さ」
リ「ふうん」
ラ「僕もそれは織れはしない。
美しい織物の継承に興味を持ったこともあったが…意味がないと思ったから止めた。
意味がないうえに災いを呼ぶとあったんじゃ、やる意味はないさ。
だから、羽衣のほうの依頼は、爺さんに言いつけてくれよな」
マ「はい。そうします」
《聖なる織機》の製造には時間が掛かり、《水の羽衣》の完成にはさらに時間が掛かる。
二人はいったん村を離れて、出来上がった頃に出直そうかとも思った。しかし、村のためにさらに何か手伝いが出来ないものかと、そう考えた。
奇妙なものだ。これはヴァーチャル・ゲームの出来事だとわかってはいるが、人と織り成す営みにはゲーム以上の何かを感じている気がした。ただ新しいアイテムを入手するための奔走ではなく、何かしてくれたら何かしてあげたい、困っていたら助けてあげたい、そんな「人情」という渋い感情に基づいて、二人は動いているようだった。
『僧侶だけで魔王を倒すには?』