第37章 えいゆう
大きな立派な城壁に囲まれた城であった。二人が達した城門には「南門」と書かれていた。他の方角にも門があるのだろう。城というよりは賑わう城下町で、複数の入口を必要とするほど、広大な城下町であることが察せられた。
城門をくぐると、そこは町であった。人の住む町が城壁によって守られているのである。そこには一般人と兵士が入り乱れ、生活を共にしているようだった。
町の入口は広場のように大きなスペースが取られ、そこには銅像の台座があった。しかし台座の上には何の像もない。
そして台座の前には立札が立てられていた。リオはそれを読んでみた。
「国民投票はみんな進んで行おう!」
なんのこっちゃ。リオは思った。
いつも、どこか少し奇妙だ。
リ「あの、ここはどこですか?」リオは道ゆく人に声をかける。
男「アークボルトだよ。世界一強い国さ。敵はない」男はキザに言い放った。良く言えば、国の強さに誇りを持っているようだった。
二人はとりあえず、宿や武器屋、道具屋などのインフラを探しつつ歩いた。探しつつ町の様子を眺め、人々の会話に耳をそばだてると、誰も少々のイライラを抱えて暮らしている雰囲気だった。
武器屋で品揃えを観察してみる。武器屋の親父さえも丸太のような太い腕をしていた。
武「いらっしゃい!ここは武器の店だ。
この剣なんかどうだね?国一番の英雄アークボルト1世が愛用していたのと、同じ型さ!」
リ「ふうん。剣を欲するパーティに見える?
ところでそのアークボルトさんは、もういないってこと?戦死しちゃったの?」
武「名誉の戦死を遂げたさ!数百年前にね」
リ「あぁ、過去の人ってことね」
マ「わたしこの杖可愛いなぁ」マナは我関せずに物色していた。難しい話は嫌いだ。
リ「そうね、あなたの武器も新調したいわね!」
マ「でしょぉ~」
本当は、数日前に定例イベントが開催され、その目玉報酬が魔法使い用の杖だったのだが、二人はアネイルやテパの騒動に夢中で、定例イベントをやり過ごしたのだった。
武「《アークワンド》か?それを持てば一人前の魔法使いだな!」
《アークワンド》は決して、マナ好みの可愛い杖とも言えなかった。物騒なアークボルト城の製品らしい少々ゴシックなデザインである。しかし早急に杖を新調したいこの状況では、妥協しなければならないようだ。攻撃呪文の威力をかなりアップさせる。
マ「えへへ魔法使いじゃないんだけどね(汗)」
魔法使いと僧侶とパラディンの三役を、頼もしくこなしてきたものだ。
16,000ゴールド。少々高いが致し方ない出費だ。
マナは《アークワンド》を装備させてもらった。新しい杖をフリフリ、ごきげんだ。
隣に防具屋がある。続けて覗いてみた。
防「ここは防具の店だ!見ない顔だな。
この兜なんてどうだ?国一番の英雄ホリディが愛用していたのと同じ型さ!」
リ「あれ?英雄さんってそんな名前だったっけ」
マ「兜はちょっとなぁ。もっと軽くて可愛いのがいいよ」マナは我関せずだ。
リ「防具も買い足したいよね。この城は強力なのが多そうだし。
《銀のかみかざり》なんてどう?アタシたち向きな感じするけど」
マ「いいねぇ♪」
防「それもいいけどよぉ、ゴツい短剣を持った姉ちゃんは兜でも似合うんじゃないか?
だからほら、ホリディ様が愛用してたコレにしとけよ!
国一番の英雄と同じなんだぜ?これ以上の幸せってないさ」
すると、横の武器屋の丸太腕から罵声が飛んできた。
武「おい!おまえ今、何て言った?
ホリディがどうとか言わなかったか?
この国一番の英雄は、誰が何と言おうとアークボルト1世様だ!」
防「うるせぇ!おまえの主観なんて誰も興味ねぇんだよ!」
おやおや!ケンカが始まってしまった。
リ「ハハ(汗)立ち去りましょ」
《銀のかみかざり》2つ分のお代を置いて、二人は立ち去った。
リ「そうだ!《やくそう》とか消耗品もこないだの炭坑でスッカラカンなんだよね。道具屋も行っとこう。
マ「《魔法の聖水》とかあるかな?またドワーフさんに会いたいなぁ」
道具屋もすぐ近くにあった。兵士たちが買い物しやすいようにインフラが整えられているのだろう。
リ「どうもー。珍しい道具もありますかね?」
道「おぉ、旅の人かね!それならこの《メーシアの聖書》がオススメだよ!
我が国の古の英雄、神官メーシア様がお書きになられたありがたーい書物だ。
いや、皆まで言うな。宗教に興味がないことはわかっているさ
。 読まなくてもよいのだよ。家の本棚にちょろっと置いておけばいいのさ。ほら、このカッコイイ革表紙!良いインテリアにもなるだろう?」
リ「ハハハ(汗)行こうマナ」
二人は買い物はあきらめることにした。
マ「ねぇ英雄さんの名前ってメーシアって言うんだっけ?わたし忘れっぽいのかなぁ」
リ「マジレスすると、それぞれ違う名前言ってるわ。
アタシももう最初の人の名前忘れちゃったけどね」
マ「何なんだろうねぇ」
リ「あーあ、なんか今日はすごく疲れたわ。そんなに戦ってもないのに」
小難しい問題に巻き込まれている…巻き込まれそうになっているからだろう。
二人は宿屋を探して歩いた。
道の両脇をキョロキョロしていると、バーや食堂でたむろする人々はどうも、やはりあのアークボルトやらホリディやらの話で議論を白熱させている。他にも名前が出てくる。
アークボルトの宿屋に着いた。重厚な国の雰囲気に合った、古めかしくも上等な宿であった。
広いロビーの壁には、とても大きな肖像画が飾られていた。端正な顔立ちをした、勇壮な騎士の絵だ。「もしや」と思ったがその通りだった。絵の右下には「文武両道の英雄 ブレイド」と記されている。
宿屋の主人はベラベラとおらがの英雄自慢をしてはこないが、彼なりの方法で推し活をしているようだった。
『僧侶だけで魔王を倒すには?』