第66章 やさしいひと
二人が目を覚ましたとき、そこは水色の世界だった。
眼前にはあのシスターが微笑んでいる。
シ「目を覚ましてよかった。
ここは希望の祠。ロンダルキアの雪山にある祠よ。
もう大丈夫。追っ手はないわ。
吹雪ももう止んでいます」
マ・リ「シスター!」
シ「助けたのは私ではなく、ラーミアよ」
マ「そうだ!
わたしたち、魔王にやられそうになって…」
シ「二人はよく戦いました。
僧侶二人で。
女の子二人で」
リ「どうにか出来ると思ったんです。僧侶二人でも」
シ「そうですね。
可能性はまだ、0ではありません」
リ「どういうこと!?」
シ「まずは、私の正体を明かしましょう」
そう言うと、シスターの姿がまぶしく光り輝いた。
そして現れたのは、赤い髪と大きな翼を持つ、美しい女性だった!
ル「私は精霊ルビス。冒険者たちを、そして世界を見守りし者」
リ「ルビス様!?トレジャーハントのイベントのときに話しかけてきた!?」
ル「そうです。
私が、言葉ではなく力を授けるときが来たようです」
マ・リ「……!!」マナもリオも呆気にとられている。
ル「あなたがたは優しかった。
世界を、優しい人に託します。
マナ?あなたは特に、優しい人でした。
穏やかな日差しが注ぐアリアハンでも、憂いの風が吹くカボチでも、あなたは優しく人に手を差し伸べていた。
マナ、あなたに莫大な量のプラーナを託します」
ルビスが左の手のひらを上に向けると、そこには玉状の光が現れ膨らみはじめた。
マ「ぷらーな?」
ル「プラーナとは、魔力の源。そして、あらゆる物質の源です。
あらゆる物はこのプラーナから出来ており、あらゆる呪文はこのプラーナから出来ています」
マ「あらゆる呪文も?」
ル「そう。つまり…。
あなたは今、あらゆる呪文を創生できます。
さて、あなたは何を作りますか?
魔王を倒すために、モンスターを滅ぼすために、最も有効な呪文は何でしょう?
大きないかずちでしょうか?大きな炎でしょうか?
それ以外でもよいのです」
マ「それ以外でも?」
ル「えぇ。あなたが望むものが具現化されます。
どんな形の、どんな呪文でもよいです。
いいえ、呪文でなくてもよいです。
あなたが望むなら、魔王など放っておいて金やルビーを具現化するのもよいでしょう。 それだけの対価を貰う功績も、あなた方にはありますから」
マ「………。
どうしよう?」
マナはリオを見上げた。
リオは、優しくニコっと笑った。
リ「あたしは超絶キガデインを思いつくので精一杯よ。
アンタが考えて♪」
マ「………」
ル「あなたは何を望みますか?あなたは何を願いますか?」
マ「………」
マナは考えた。
わたしは何を望むかしら?
………。
………。
世界が平和になったらいいのに。戦いなんてなくなったらいいのに。
戦いたがる人たちがいなくなったらいいのに…!
奪いたがる人がいなくなったらいいのに…!
マナは、目をぎゅっとつむってそう強く念じた。
マ「ごめんなさい(汗)。呪文の名前はないです。あはは」
しかし、ルビスの手のひらの光はそれに呼応した!
ル「名もなき呪文」ルビスはつぶやいた。
すると、光は空へと打ちあがった!
そして無数の光に分かれて、世界中に流星のごとく降り注いだ!
マナたちから見て、夜空は白夜のように白んでいる。
山火事でも起きているように、UFOでも飛来したように、空が白んでいる。
遠い空の下で何が起きているか、マナたちには見えず、わからない。
そのとき何が起きたか?
マナが放った名もなき呪文によって、魔王は一瞬で消滅した。
仲間の、ではなく部下のゾンビたちも一瞬で消滅した。
世界中のあらゆるモンスターたちが消滅した。
…それだけではなかった。
人間も、多くが消滅した。
たとえば、アネイルの炭坑でマナたちを出し抜いた戦士たちもまた、この光で消滅した。
トレジャーハントのイベントでプレイヤーキルを働いた冒険者たちも消滅した。
好戦的な者たちが、不誠実な者たちが、欲深い者たちが、世界中で消滅した。
マナが念じたとおりになった。
そこからは見えなかったが。
マ「…何が起きたの?」
ル「魔王は消滅しました。その手下たちも。
あなたたちは世界を救ったのです。
最後になりましたがリオ、あなたもまた素晴らしい冒険者でした!
恐ろしいほどに聡明で、冷静で、そして勇敢でした。無欲で、優しく、人情に篤く、前向きで、強い人でした。あなたが司令塔となり、陰の盾となりマナをここまで牽引したのは、言うまでもありません。
これほどまでに素晴らしい勇者が、かつて居たでしょうか?あなたは最も優れた人格者であったような気がします。
あなたたちは、世界を救ったのです!
おめでとう。どうもありがとう!」
マ「ハチャメチャギガデイン!?」
ル「うふふ。名前はない、とあなたは言いました。
名前を付ける必要もないでしょう。
こんな魔法があったことを、誰も知らないままで良いのです」
マ「そうなの?」
ル「ええ」
リ「どうだっていいわ♪」リオは優しく微笑んでいる。
ル「さぁ、愛する人々の待つ場所へお帰りなさい。
ラーミアが運んでくれるでしょう」
祠の外ですまし顔で待機していたラーミアは、大きく一つ鳴き声をあげた。
二人を背に乗せ、三たび大空へと飛び立った!
雪山の大地を抜け、スタンシアラの平原を抜け、海を越えて、青空の中をラーミアは飛んだ。
二人は気持ちよさそうに空の旅を満喫した。
リ「あれ?そういえば結局このゲーム、ドラゴンのボスもドラゴンの神様も出てこなかったけど、何がドラゴンクエストだったんだろ?」
マ「てゆうか魔女っ子の服どこぉ~!?」
-The End-
マナとリオのステータス・その7
最後に
もし、この作品が多くの人に喜ばれ、アニメ化、マンガ化、映画化など発展していくとき、それらが「非営利のプロジェクト」として進められていくことを著者は希望しています。「無償のボランティアでも良いよ」という方々が作ってくださることを希望しています。
著者
『僧侶だけで魔王を倒すには?』