40 お金じゃ買えない幸せ
竹富島に上陸して、
最初に私を出迎えてくれたもの…
…それは、
たくさんの「ネコ」だった!
船着場の辺りには、
ノラネコなのだろうか、
ちょっと野生的な目つきをした線の細いネコが、
10匹以上も、ウロウロしていた。
彼らは、
旅行者が上陸すると、興味津々に寄ってくるのだけれど、
かと言って、足元まですり寄って甘えたりは、しなかった。
「付かず、離れず」というカンジだ。
…そのスタンスは、
今、潮風で傷心を洗い流したばかりの、
あのヒロさんを、連想させた。
「僕は、キミのことを見守っているよ♪
けれども、余計な手出しは、しないからね?」
私と一緒に船を下りた人間は、
10人ちょっと、居たはずだった。
けれども、
私がネコたちに気を取られているうちに、
みんな、どこかに消えてしまっていた。
私は、
貝殻の屑(くず)が堆積して出来たと思われる、真っ白い道を、
あてもなく、歩いた。
とりあえず、
一本道の向こうに、集落があるらしかった。
集落に行けば、宿もあるだろう。
白い道を歩いていると、
道の真ん中を、妙な立て札が塞いでいた。
日本語なのか、そうじゃないのか、
よくわからない呪文のような言葉が、刻まれていた。
一体、この島は、
早速、おとぎ話のような様相を呈(てい)してきた!!
その立て札の辺りには、
立派な、独創的な根枝を張る、ガジュマルの樹が原生していた。
そのガジュマルの趣というのが、また、
白雪姫の絵本にでも出てきそうな、今にも喋り出しそうな、
趣ある古木だった。
…いや、喋った…!
ある1本のガジュマルは、
今朝、私に「おいで♪」と言った声と同じニュアンスで、
「マツタケ」と、言った。
「マツタケ」というコトバが、宙に「在った」。
私はまたも、聞き返してみたけれど、
以降は、ウンともスンとも、言わなかった…
私は、
「マツタケ」というコトバを頭に刻んで、なおも、歩いた。
船着場から数えて、15分も歩けば、
なるほど、集落に迷い込んでいた。
うわさ通り、
赤い屋根瓦の平屋の家並みが、迷路のように密集していた。
「知らない町に来たんだわ♪」
私は少し、興奮をおぼえた。
これらの可愛らしい家は、どれも、
石をコツコツと、また精巧に組み上げた立派な石垣に、囲われていた。
「『石垣島』という名前に相応しいのは、コッチなんじゃないかな?」
と思って、一人、微笑んだ。
なるほど!
ヒロさんの言っていた通りで、
この独特な集落は、旅人をいっこうに飽きさせない♪
それぞれの家の屋根には、
沖縄では「家の守り神」と言われているシーサーが、
可愛らしく愛くるしい造型で、奉られていた。
どの家のコも、微妙に違うのである!たぶん、住人の手作りだろう。
シーサーを眺めて周るだけでも、飽きなさそうだった。
屋根の上のシーサーだけではなく、
石垣の壁や庭先などに、
ファニーな造型品が、幾つも飾られていた♪
竹富の住民は、芸術家が多いんだろうか?
小さな郵便局を見つけて、
小さな商店を見つけた。
妙な貯水タンクのようなものの横を通り、
コッソリ、そのハシゴを登ってみたりした。
集落を30分歩いても、
私はさっぱり、人に会わなかった…
「集落を」だよ?
旅行者が居ないだけでなく、ジモティにも、会わなかった。
時間は、3時半を回ったところだった。
とても暑かったけれど、
暑さはあんまり気にならなかった。
…汗をかくのは、好きじゃナイのだけれど、
汗をかくことも、気にならなかった。
体はずいぶん、汗臭かった。
けれど、それも気にならなかった。
「人にどう思われるか」なんてサッパリ気にしていない自分に、気付いた。
…けれども、皮肉なことに、
人にどう思われるかをサッパリ気にしていない私の周りに、
だーれも、現れないのだった(笑)
やがて、
小さな公園というか、庭園のような場所にやってきた。
公園の端には、20メートルくらいの塔が立っていた。
塔の上には、
たいそう簡素な見晴らし台が、設けられているようだった。
…見晴らし台というか、
気球のカゴみたいな、人が2~3人立てそうなスペースが、
てっぺんに備えつけられているだけだ(笑)
見晴らし台に辿り着くためには、
かなり怖いハシゴを、登らなければならなかった。
私は、それにチャレンジしてみた。
案の定、怖かったし、手こずったけれど、
助けてくれる人が居るワケでもないし…
黙々と、頑張って、登り詰めた。
見晴らし台からの眺めは、
「絶景!」というようなモノでは、ナイ(笑)
けれども、
付近の集落一帯を見下ろすことくらいは、出来た。
すぐ眼下の公園を見下ろしていると、
なんと!
ある1ヶ所の植わ物が、
ある文字になるように、刈りそろえられていることに、気付いた!
これはまさしく、
見晴らし台まで上って来たヒトで、
かつ、注意深さが備わっていないと見つけられない、
「洒落たオマケ」のようなモノだった♪
もし、あなたが竹富島に来ることがあるなら、
ご自身の目で、何という文字なのかアバき当てて下さいな♪
見晴らし台の上は、
とにかく、風が心地良かった。
ダクダクにかいていた汗を、すっかり乾かしてくれた♪
私は、
何をするでもなく、何を見るでもなく、
ただただ、のんびり、見晴らし台の上で過ごした。
やはり、
高所から見下ろそうとも、人影は見えなかった。
…私は、
無人の島に迷い込んでしまったんだろうか?
何か、
この島を独り占めしてしまったような気がして、
爽快なキブンだった♪
「お金じゃ買えない幸せ」
というのは、こういうモノを言うのだろう!
沙織が「ビーチリゾートは平日に行くモノだ」と言っていたのを、
思い出した。感謝した。
…竹富島は、ビーチリゾートと呼んでイイものかどうか、わからないけれど、
つまり、
ビーチリゾートでなくたって、
観光地というモノはどこだって、
なるべく人の少ない時を見計らって訪ねたほうが、良いのだ!
もし私が、
30人もの観光客と一緒に、
添乗員さんに連れまわされて竹富観光をしていたなら、
この2時間ほどで私が感じた「ステキ♪」の数々は、
どれもこれも、見過ごしてしまったことだろう。
さっきヒロさんが、
「竹富島は、巨大な秘密基地だ♪」
と形容していたのを、思い出した。
そして、そのイミが、少しは解った気がした。
…きっと彼は、
私の100倍くらいも多く、面白いモノを見つけたのだろうけれど。
私が見つけたのは、彼の1/100だ。
それでも尚、私もまた、
誰かに、あなたに、
「竹富島は、巨大な秘密基地だよ♪」
と紹介したい。
…さぁ、あなたは、
「秘密基地」に、添乗員さんやお爺さんお婆さんを引き連れて、
遊びに行きたいだろうか…?
『星砂の招待状 -True Love-』